南川遺産『カジ蒸し』 ~失われつつある山間部の風景~

2017.04.01

甑(こしき)を上げる。視界がさえぎられるほど、真っ白な蒸気があたりを包む。一気に周りの温度が上がる。蒸気の熱が顔にかかる。湧き上がる湯気の迫力。山間から陽光が差し込み、神々しいとさえ思う瞬間。少し甘さのある香りを鼻の奥で感じる。それが蒸した楮(こうぞ)の香り。

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南川(みながわ)の冬の風物詩『カジ蒸し』

ここは、土佐町・南川地区。標高500mの山間部に約30名が暮らす。眼下には美しく澄んだ瀬戸川が流れる。1月下旬から2月にかけて、南川地区の冬の風物詩である『カジ蒸し』作業が行われる。楮(こうぞ)のことを、この辺りでは「カジ」と呼ぶ。

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南川地区で100年以上続くカジ蒸し。カジを蒸すのは甑(こしき)と呼ばれる大きな樽。50年もの間、使い続けている。甑を使ってのカジ蒸しは土佐町では南川地区のみ。全国的にも珍しい貴重な光景。

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楮の皮がズルリとむける=カジをへぐる

甑(こしき)の下にある大きな釜に水をいれて、釜の下から薪をくべてボンボン火を焚いて蒸気を出す。束にしたカジを縦にして置き、上からすっぽりと甑をかぶせる。蒸すこと、4時間。甑を上げて、水をかけて冷ます。あとはひたすらカジの皮をはぐ。

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蒸されたことでカジの皮はふやける。実におもしろいようにむける。根元の皮を手で持ち、少しぐるりとひねると、ずるりとむける。あとは皮を横にひっぱる要領。さぁ〜っとむける感触がクセになる。

ところで、こちらの人はカジの皮をむくことを「カジをへぐる」と言う。「へぐる」という言葉、なんか好きです。へぐったカジの皮は天日に干す。瀬戸川を吹き抜ける乾いた冬の風が水分を飛ばしてカラカラにする。

 
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カジは南川地区のあちこちに自生している。長く太いカジをとるためには、刈りとばしてしまわないよう株を残して切る。切ったカジは太さや長さを揃えて束ねる。この写真はその時の一枚。南川に住む豊子ばあちゃん。ミレーの「落穂拾い」の絵のような、心つかまれる風景。

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現在、南川地区でカジ蒸ししているのは2軒のみ

1軒は石田さん。

「この作業は自分のおじいさんの頃からやりよった。子どもの時分から手伝いよったきねぇ。この辺りはどこの家でもやりよったよ。 昔は、楮やミツマタがようけとれよったけんど植林にしてしもうてからは減ってしもうたねぇ。」

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もう1軒は水野さん。

「カジ蒸しの時は近所の人に手伝いにきてもらうがよ。自分もイサちゃん(石田さん)の作業の時は手伝いにいくきね。そうやって、みんなぁで助け合うてやりゆうがよ。」

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南川のおかあさん達と四方山話をしながら作業する時間がなんとも心地よい。この場所に流れるのは『南川時間』。

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なんちゃあ急ぐことはない。自分のペースでできることをやる。疲れたらひなたぼっこしながら休憩。

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持ち寄ったお菓子やらミカンやらを食べながら、火にあたる。

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山の暮らしの中で、『しなやかな強さ』を身につける

人手不足と原料調達の困難さ。そして収益性。山の暮らしの中で直面する課題。そんな状況を前にしながらも、先人から受け継いだことを実直に行う人達がいる。土佐町に来て、何度となく思う。山に暮らす人達は、ちょっとやそっとのことでは折れることのない『しなやかな強さ』を身につけている。

「これ、食べや」と出してくれた芋。

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甑の上から出る蒸気でふかした芋。こじゃんと甘い。うまいなぁ。うまいんだよなぁ。そう、この芋は格別にうまいがよ。

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『南川カジ蒸し』
【時期】1月下旬〜2月
【場所】高知県土佐郡土佐町南川 南川老人憩の家
【問合せ】080-6288-6534/info@reihokukikou.kochi.jp

 

この記事を書いた人

Maeda Kazutaka
Maeda Kazutaka
れいほく紀行編集長。高知県出身。2015年4月より土佐町石原地区での暮らしを始める。地域の宝もんを発掘しながら、里山暮らしに必要な心技体の修行を積みつつ、「つながる・つなげる」をテーマに、世界中からの旅人を受け入れるゲストハウス『omoya』オープンに向けて奮闘中。細胞にしみわたる音楽と、精神を解放するお酒をこよなく愛する。



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